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授業料値上げに関する私見

最終更新:2025年10月2日

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ここには、授業料値上げに関する私見をまとめています。管理者はかねてから授業料値上げには原則として反対という立場ですが、学生自治会や学生諸団体とは立場や受け止めの隔たりが大きく、個人攻撃の懸念から何も発信できていないことがもどかしいところです。過去の値上げ問題についての言及は以下の通りです。

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一応閲覧注意です。あまり広めるつもりもないものなので、SNSなどでの拡散などはお控えください。

今回の授業料改定に関する評価

  • 今回の授業料値上げの背景は、大学の教育活動の継続に関わる財務状況の問題がある。東京大学の財務情報 によると、令和4年度の経常損失は51億円にのぼる。新潮社の記事 でも指摘されているように、東大の内部留保のうち流動資産は約1800億円であり、このペースで赤字が続けば破綻は避けられない。今回の授業料改定によって、今回の授業料改定による増収は、多く見積もっても5億円程度であり、財務状況の根本的な改善にはつながらない可能性が高い。

  • 今回の改定により、世帯収入400〜600万円の学生や、600〜900万円の家計を支える地方出身者の負担が軽減されるため、本来入学できる学力を持った受験生が教育を受けられない事態は概ね避けられている。ただし、これによって「世帯収入・出身地の壁」が新たに生じ、制度の複雑さが増している点は問題だ。

  • 当初、大学側は世帯収入600万円超〜900万円以下の学生に対して「出身地等個別の状況を勘案した経済支援」の拡充を表明していたが、結果的に制度は大幅に簡略化された。その影響で大学の増収はさらに小さくなり、授業料改定の意義が問われている。そもそも約75%の学生にとっては実質的な値上げであり、望ましい決定とは言えない。このため、今回の決定には原則として反対し、引き続き議論が必要だ。

対案(非常に難しい)

  • 授業料改定に反対する以上、対案が求められるが、現実的な解決策を見出すのは難しい。直接的な対応策としては、20〜30億円程度運営費交付金を増額することが考えられる。しかし、これは大学側も従来から求めており、実現の可能性は低い。ただし、これまでの政府や財務省の教育予算を減らすような緊縮財政的な政策は、明らかに誤りであると言わざるを得ない。

  • 事業評価とその公表は重要である。大学には「有意な効果が認められないが、前年度に計上されたため継続されている」事業が存在する可能性がある。例えば地方自治体では、項目ごとの効果測定と、どの事業にどれだけの予算を振り分けたのかを具体的に書いた行政評価報告書岡山県倉敷市の例など)を公表しているところがある。東京大学にも事業評価の仕組みはあるが、筆者が確認した範囲では、各事業にどの程度の予算が割り当てられているのかは明示されていない。

  • 『東大「授業料値上げ」で見過ごせない「留学生の授業料が安すぎる」問題』 (新潮社)は重要な指摘をしている。東京大学の基金運用力の低さと、留学生の授業料が日本人と同水準であることを問題視している。(ただし、この記事が提案する留学生の受け入れ拡大には 現状の情報保全体制では あまり賛同しない。特に、国家情報法や国防動員法を持つ中華人民共和国の施策は正確に理解し、留学生を安全に受け入れられる体制が必要だ。)

  • 微々たるものではあるが、学生側の節電・節水などの協力も重要だ。例えば、必要以上にエレベータを使用しないこと、クーラーを使いながら広い空き教室を少人数で占有しないことなどが挙げられる。総長参与の講義によれば、東京都の水道料金は使用量が多いほど単価が高くなるため、東京大学では家庭用の水道料金の3〜4倍程度に達するという。財務状況の改善に向けた学生側の意識改革も、大学側の理解を得るためには重要だ。

学生側の「対話」姿勢への疑問

  • 『学生自治会の「対話」姿勢を問う』 でも述べたように、抗議声明やデモの様子などを見ると残念ながら自治会や学生諸団体は、学生側の論理と要求を強硬的に押し出す感情的な議論を展開しているように見受けられる。「対話」を求める立場でありながら、抗議声明で「卑劣」などの表現を用いる など、「対話」を求める側としてはあまりにも不適切であり、むしろ対話を拒否しているように映る。これは決して学生自治会を否定する意図ではないが、こうした態度が交渉を不利に導いていることを自覚する必要がある。

  • 一部学生が安田講堂に侵入を試みて警備員を怪我させた事件 に関して警察が導入されたことについて、「東大確認書 に反する」として抗議がなされた。しかし、警備員を負傷させた行為は明らかに傷害罪であり、本来的には警察の介入は妥当だ。もし大学側が東大確認書の確認事項に反したことを強く非難するのであれば、今回の学生側の傷害案件についても厳しく批判するのが妥当である。その点から、今回の自治会や学生諸団体の対応は極めて一方的なものと言わざるを得ない。

  • この「東大確認書」に関連して、「東大学費値上げ反対緊急アクション」が大学の許諾を得ずに立て看板を設置した。ルールを無視する団体の主張は、たとえそれがどれほど正当だと彼らが考えていたとしても、大学側には説得力を持たない。「大学側が表現の自由を封じている」との批判があるかもしれないが、立て看板ではなくXやWebサイトなど他の手段で主張すれば、表現の機会はいくらでもある。大学構内は大学の管理下にあり、立て看板の設置許可の裁量権はあくまで大学側にある。